都内K中学校 中学2年Kさんのレポート

Kさんは社会科授業の課題としてレポート作成に取り組みました。死刑制度をテーマとして選択した理由は、元死刑囚袴田巌さんの冤罪が晴らされたことがきっかけとなったとの事です。

取材先:⼀般社団法⼈シンカハモニー 代表理事 中澤英太⽒、理事 ⽥部井裕介⽒
取材日:2025年11⽉20⽇12時57分〜14時11分 対⾯

死刑制度の存廃

各団体・地域の対策・取り組みを例にして

はじめに

「袴⽥巌さんに無罪判決」
2024年10⽉ごろに、私がニュースを⾒ていた時に流れてきたものである。
袴⽥巌⽒は⻑年の間「袴⽥事件」の犯⼈として死刑囚として扱われてきた。袴⽥事件とは、1966年6⽉30⽇、静岡県清⽔市の味噌製造会社専務宅から⽕が出て全焼するという⽕事が発⽣した。焼け跡からは4⼈が刃物で刺された後の死体が発⾒され、当時その⼯場で働いていたもとプロボクサーの袴⽥巌⽒を犯⼈として逮捕した事件である(1)。
しかし袴⽥巌⽒の証⾔と異なる証拠が出てきたことから、袴⽥巌⽒の冤罪の疑いが出てきた。そして何度にもわたる再審の結果、2024年9⽉26⽇に無罪が確定し、10⽉9⽇に検察側が上訴権を放棄したことにより、判決が確定した(2)。
これらのことを受け、私は「裁判で⼀度死刑判決を下されても何度も再審をすることにより、無罪になる可能性がある」ということを考えた。私が個⼈的に死刑制度について
レポートを書こうと考えた動機は以上である。
⼀⽅、社会的に⾒たとき、死刑制度を完全に廃⽌、または⼀時的に廃⽌している国々は多く、⽇本は国際社会・国際潮流から置いてかれていっている。
また、死刑制度には誤審の可能性があり、必ずしも死刑判決を受けた⼈々が有罪であるとは限らない。そのため、もしも無実の⼈へ対し、死刑を執⾏してしまった際には取り返しのつかないこととなってしまう可能性がある。
以上の問題意識を踏まえ、私が今回のレポートのテーマとして設定したものは、「死刑制度の存廃」である。本稿の研究⽬的としては、死刑制度が社会からどれほどの評価を受けているのかを考え、各地域・団体の死刑制度廃⽌への取り組みをもとに、死刑制度の存廃を考える。

各章の展開を紹介していく。
第1章では死刑制度の現状を説明する。主に1節では国内で死刑・終⾝刑判決を受けた⼈数と誤審の数を挙げ、2節では世界的に⾒た死刑制度の現状を述べる。3節では死刑制度が社会にどのような影響をもたらすのかを、肯定的・否定的な⾯を説明し、考える。第2章では各団体・地域の死刑制度廃⽌への取り組みを例にしていく。
1節ではアムネスティインターナショナルやEUなどの死刑制度廃⽌への活動を、2節では取材で得た情報をもとに、⼀般社団法⼈シンカハモニーが⾏なっていることを説明する。第3章では死刑制度を廃⽌した際の代案と課題について考える。

第1章 死刑制度の現状

第1章1節 国内で死刑・終身刑判決を受けた人数と誤審の数ここでは、⽇本国内で死刑・終⾝刑判決を受けた⼈の数と、誤審の数を挙げていく。
⽇本では1960年以降、死刑判決が確定した件数は計526件あり(3)、そのうち冤罪事件は4件あった。その例として、「免⽥事件」、「財⽥川事件」、「松⼭事件」、「島⽥事件」が挙げられる(4)。また、2024年9⽉26⽇に無実が確定した袴⽥巌⽒が犯⼈とされていた「袴⽥事件」を含めると、計5件である。
これらのことから、⼀度死刑が確定したものでも後に冤罪が発覚し、無罪になるということがあるということがわかる。

第1章2節 世界的に見た死刑制度の現状
第⼀章第1節では、世界的に⾒た死刑制度の現状について説明する。
2020年12⽉31⽇現在、世界199カ国のうち、全ての犯罪に対して死刑制度を廃⽌している国は108カ国あり、通常犯罪に対しては死刑制度を廃⽌ (軍放⽕の犯罪や特異な状況における犯罪のような例外的な犯罪にのみ、法律で死刑を規定) している国は8カ国ある。
また、事実上死刑が廃⽌されている国(殺⼈のような通常犯罪に対して死刑制度を存置しているが、過去10年間に渡って執⾏がなされておらず、死刑執⾏をしない政策または確⽴した慣例を持っていると思われる国、死刑を適⽤しないという国際的な公約をしている国も含まれる)は28カ国、存置国は55カ国ある(5)。
また、経済協⼒開発機構(OECD)加盟38カ国のうち、死刑制度を存置しているのは⽇本、韓国、アメリカの3カ国のみで、韓国では1997年以降死刑が執⾏されておらず、アメリカでは50州中23州で死刑が廃⽌され、3州が停⽌を宣⾔し(2021年6⽉現在)、連邦レベルでも2021年7⽉以降、死刑執⾏が停⽌されている(6)。
これらのことから、⽇本が死刑制度において、国際社会から置いてかれていっていると考えられる。

第1章3節 死刑制度が社会にもたらす影響
ここでは死刑制度が社会にどのような影響をもたらすのか考えていく。
まず、死刑制度があることによる肯定的な⾯として、加害者の再犯を完全に防⽌できるということが挙げられる(5)。たとえ終⾝刑や無期懲役であっても、脱⾛や仮釈放、将来的な法改正による社会復帰の可能性があるため、再犯する可能性がゼロとは⾔えない。
また、そのほかにも、死刑が執⾏されることで被害者遺族がある程度の⼼理的な区切りや納得を得られるということ、重⼤犯罪を犯した際の刑罰として、死刑があり得るということから、重⼤犯罪の抑⽌⼒になりうるということが挙げられる (6)。
次に、死刑制度の社会にもたらす否定的な⾯を挙げていく。死刑制度が社会にもたらす否定的⾯として、死刑には誤審が許されず、もしも無実の⼈を死刑にしてしまった場合、取り返しのつかないことになってしまうということがある(7)。そのほかにも、実際に死刑を執⾏する際、その場に⽴ち会う刑務官や執⾏を⾏う刑務官の精神的な負担にもなる(8)
また、これは肯定的、否定的⾯とは関係はないが、先ほど重⼤犯罪の抑⽌⼒になりうるということを述べたが、死刑制度が他の犯罪に対しても同じ効⼒を発するとは限らず、実証・科学的調査は存在していない(9)。
以上のことが死刑制度が社会にもたらす影響である。

第2章 各団体・地域の死刑制度廃止への取り組み

第2章1節 各団体・地域の死刑制度廃止への取り組み
ここでは各団体や地域の死刑制度廃⽌への取り組みや呼びかけの例を挙げていく。
⽇本国内限定であるが、⽇本弁護⼠連合会という団体は死刑制度廃⽌を⼀般の⼈々へ向けて発信し、呼びかけている。呼びかけの他にも、2016年に第59回⼈権擁護⼤会において「死刑制度の廃⽌を含む刑罰制度全体の改⾰を求める宣⾔」を採択し、国に対し死刑制度の廃⽌と刑罰制度全体の⾒直しを求めてきた。そして、2022年11⽉15⽇付けで「死刑制度の廃⽌に伴う代替刑の制度設計に関する提⾔」を取りまとめ、改めて「死刑制度の廃⽌」と「代替刑としての終⾝拘禁刑の創設」を政府・国会及び社会全体に提⾔している(10)。このように、⽇本国内では⽇本弁護⼠連合会が活動を続けている。
⽇本に限らず、全世界的に死刑制度廃⽌を呼びかけ、運動・取り組みをしている団体として、アムネスティインターナショナルがある。アムネスティは1997年に「死刑廃⽌のためのストックホルム宣⾔」を発表し、「死刑は⽣きる権利の侵害であり、究極的に残虐で⾮⼈道的かつ品位を傷つける刑罰である」として、あらゆる死刑に例外なく反対する姿勢を明確にし、死刑のない世界の実現に向かって活動してきた(11)。
また、実際に死刑制度廃⽌に向けて⼀般の⼈々へ向けて活動をしており、講演会なども主催して開いている(12)。
そのほかに、死刑制度廃⽌へ取り組みを⾏っている団体・地域として、EUがある。「EUは、死刑廃⽌は国家が⼈権に関する義務を果たす上での核⼼的な課題と位置付けている。⼈権は普遍的なものであり、平和、発展、⼈間の尊厳の前提条件である。EUは、⾃らの外交的・政治的影響⼒や開発協⼒を通じて、死刑の世界的な廃⽌を推進している。その取り組みの中核となっているのが、1998年に採択された『死刑に関するEUガイドライン』(2001・2008・2013年改訂)である。EUはこのガイドラインに従って、死刑存置国に対し、死刑廃⽌への最初の⼀歩として執⾏停⽌(モラトリアム)を導⼊するよう呼びかけている。また、死刑の適⽤を『最も重⼤な犯罪』に限定すること、執⾏にあたっては⼈間の尊厳を守るために最低限必要とみなされる⼀定基準を順守することを求めている。」(13)。このように、EUも死刑廃⽌への取り組みを呼びかけている。

第2章2節 一般社団法人シンカハモニーの死刑制度廃止への取り組み
第2章2節では、取材で得た情報をもとに、⼀般社団法⼈シンカハモニーが⾏っている死刑制度廃⽌への取り組みの例を挙げていく。
まず、なぜシンカハモニーを取材先に選定したのかを述べる。
死刑制度廃⽌を呼びかけている団体として、死刑制度廃⽌への取り組みだけでなく、その後の社会復帰や更正活動も⽀援している団体であったためである(14)。
では、シンカハモニーの死刑制度廃⽌への取り組みの例を挙げる。
シンカハモニーの代表理事である中澤英太⽒と理事である⽥部井祐介⽒は、シンカハモニーはそこまで⼤きな団体ではないため、直接的に訴えることはできないが、「死刑制度廃⽌協賛活動」という活動を通して、同じく死刑制度に反対している団体へ資⾦を寄付し、継続してもらうという間接的な活動をしている(15)、と⾔っていた。

第3章 死刑制度を廃止した際の代案と課題

第3章では死刑制度を廃⽌した際の代案と課題について考えていく。
死刑制度の代案として、アムネスティは無期刑の運⽤のあり⽅と合わせた、死刑に代替する最⾼系の在り⽅、凶悪犯罪やテロ犯罪に対し、より効果的に対応するための、⽇本にはまだない刑事法制や操作⼿法の採⽤、再犯防⽌のための、死刑を廃⽌した国々に⾒られる法制度を参考にした加害者構成や加害者遺族への⽀援等を死刑をなくした際の検討課題としている(16)。
以上が死刑制度を廃⽌した際の代案となる。
次に、死刑制度を廃⽌した際の課題として、重⼤犯罪の代償としての死刑がなくなったことによってテロなどの⼤きな犯罪が増えていくという危険性が考えられる。これらの対策として、EUなどは、他国との連携で犯罪者を逮捕するということを⾏なっている(17)。しかし、これはEUという隣接した国同⼠の連合であるからできることであって、島国である⽇本には完全に適応できるとは⾔い難い。
また、先述の団体⼀般社団法⼈シンカハモニーの中澤⽒、⽥部井⽒は「死刑制度というものは、⼈の作ったものであるため、本当に⼈を殺すという権利はあるのか」という死刑制度の根本に対する疑問を取材の際に考えていた(18)。

おわりに

本稿では死刑制度廃⽌への各団体・地域の取り組みを例に、死刑制度の存廃について考えてきた。第1章では、死刑制度の現状を述べ、その1節では死刑・終⾝刑判決を受けた⼈の数と誤審の数を、2節では世界的に⾒た現状を、挙げてきた。3節では、死刑制度が社会にもたらす肯定的な⾯・否定的な⾯を挙げた。第2章では各団体・地域の取り組みを例に挙げた。1節ではアムネスティインターナショナルやEUなどの取り組みを、2節では取材内容をもとに、⼀般社団法⼈シンカハモニーの活動を挙げた。第3章では、死刑制度を廃⽌した際の代案と課題を述べた。
また、⼀般社団法⼈シンカハモニーの中澤⽒と⽥部井⽒は第2章3節で述べた、被害者遺族も加害者の死刑が執⾏されることによってある程度の⼼理的な区切りがつくということに対し、「本当は被害者遺族としては、死刑囚が何の反省・後悔もせずに死刑になって死ぬよりも、⼀⽣を監獄の中で悔いて、被害者遺族に対して反省をしながら死ぬ⽅がいいのではないか」ということを⾔っていた(19)。
また、実際に、被害者遺族の73.3%は加害者へ対して死刑を望んでいるといる(20)、という結果が出ているが、残りの30%弱は加害者に対して死刑を望んでいるわけではない、すなわち被害者遺族全員が死刑を望んでいるわけではないということがわかる。
本稿の結論を改めて述べる。⽇本では死刑制度というものがいまだに残っており、世界的潮流から置いてかれている。また、死刑制度には絶対に誤審が許されず、誤審をしてしまい、死刑を執⾏してしまった際には取り返しのつかないことが起こってしまう。そのため私は、⽇本は死刑制度を廃⽌するべきだと考える。世間には、死刑は慎重の上にも慎重に運⽤されているため、果たして廃⽌するべきであるのかという意⾒(21)がある。
本稿で明らかにできなかったことを述べる。本稿では、死刑制度の現状、死刑制度廃⽌への取り組み、死刑制度の代案と課題を述べてきたが、もしも実際に代案が採択され、死刑制度がなくなった際の被害者遺族の気持ちを考察すること、被害者遺族への配 慮をどうするのかということを述べることができなかった。この問題を明らかにするためには、被害者遺族へ⾦銭的⽀援やカウンセリングなどを⾏なっている何かしらの団体に取材を申し込み、取材をすることが必要であると考える。また、その他に明らかにできなかったことは、⼀般社団法⼈シンカハモニー以外に死刑制度に反対をしている団体の活動などがある、このことを明らかにするためには、実際にシンカハモニー以外の団体へ取材をすることが求められると考える。
以上のことを今後の課題とし、本稿の結びとする。


引用注
(1)「袴⽥事件」(⽇本弁護⼠連合会) https://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/deathpenalty/q12/enzaihakamada.html 最終閲覧⽇2025年11⽉21⽇
(2)同上
(5)平野啓⼀郎『死刑について』(岩波書店、2022年)pp.1-3
(6)同上
(3)「5. Number of death sentences and life imprisonment sentences by trial level (Since1957)」(Crimeinfo) https://www.crimeinfo.jp/wp-content/uploads/2025/09/5.-deathsentences-
and-life-imprisonment-sentences_2024.pdf 最終閲覧⽇:2025年11⽉19⽇
(4)「死刑判決が確定したえん罪事件の例」(⽇本弁護⼠連合会)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/deathpenalty/q12/enzaiex.html 最終閲覧⽇:2025年11⽉19⽇
(5)「死刑制度とは?国によって違う?⽇本の賛成理由と廃⽌されない要因を解説!メリットとデメリットも紹介」(Spaceship Earth) https://spaceshipearth.jp/death-penalty-system/#:~:text=死刑制度のもうひとつ、根拠といえるでしょう。
(6)同上
(7)同上
(8)佐藤⼤介『中⾼⽣から考える死刑制度』(かもがわ出版、2024)p.58
(9)「死刑制度の存廃に関する主な証拠」(法務省) https://www.moj.go.jp/content/000053167.pdf 最終閲覧⽇:2025/11/19
(10)「死刑廃⽌」(アムネスティインターナショナル) https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/ 最終閲覧⽇:2025年11⽉20⽇
(11)「死刑執⾏に対し強く抗議し、直ちに全ての死刑執⾏を停⽌し、世界的な廃⽌の流れに沿った死刑制度廃⽌の実現を求める会⻑⽣命」(⽇本弁護⼠連合会) https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2025/250627.html 最終閲覧⽇:2025年11⽉21⽇
(12)「第5回死刑に関する地域会合東アジア⼤会」へのFWより。
(13)「EUはなぜ死刑に反対するのか 基本姿勢と国際的役割」(駐⽇欧州連合代表部の公式ウェブマガジン) https://eumag.jp/article/feature1025a/#:~:text=死刑廃⽌を視野に、を推進していく。
(14)「可能性と希望を奪わない社会を⽬指して」(⼀般社団法⼈シンカハモニー) https://www.syncahamonie.or.jp/synca-wp/ 最終閲覧⽇:2025/11/20
(15)⼀般社団法⼈シンカハモニー 代表理事、中澤英太⽒、理事、⽥部井裕介⽒への取材による。
(16)前掲FWで得た資料による。
(17)「⼈の⾃由移動が進むEUの犯罪への取り組みは?」(駐⽇欧州連合代表部の公式ウェブマガジン) https://eumag.jp/questions/f1014/#:~:text=ユーロポール、ユーロジャストとは何ですか 最終閲覧⽇:2025年11⽉22⽇
(18)前出取材による。
(19)前出取材による。
(20)「犯罪被害者についての主な実態・意識調査等⼀覧」(npa.go.jp) https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2006/pdf/zenbun/pdf_honpen/honpen2_09_2.pdf 最終閲覧⽇:2025年11⽉22⽇
(21)橋本祐蔵「わが国の死刑制度を考える」(『放送⼤学研究年報』第15号、1997)p56

取材先一覧
・⼀般社団法⼈シンカハモニー 代表理事、中澤英太⽒、理事、⽥部井裕介⽒
2025年11⽉20⽇12時57分〜14時11分 対⾯
FW一覧
・「第5回死刑に関する地域会合東アジア⼤会」、2025年11⽉8⽇14時〜15時40分、⽴正⼤学品川キャンパス9号館地下1階9B22号室

TOP